書棚を整理していたら母の遺品が目に入りました。
実家を整理するとき捨てきれず持ち帰ったものです。
それは「えんぴつで奥の細道」という、松尾芭蕉の「奥の細道」の文章を鉛筆でなぞっていく、いわゆる文字の練習帳です。
それは東京の深川から始まり、岩手の高館から秋田の象潟(きさがた)を回り、日本海沿いに南下して福井敦賀の種の浜(色の浜)を通り、むすびの地となる岐阜県の大垣までの道のりを、文の解説や文字の成り立ち、書き方のポイントなどを添えて総数227ページに亘って綴ったもので、母の痕跡は58ページの白川で止まっていました。
久しぶりに1ページ、1ページゆっくり眺めてみると、手本の文字からはみ出さないよう一字一字丁寧に書いているけど、所々ちょっとはみ出してる母の筆跡がとても愛おしく感じられました。
父の仕事柄、家を空けることが出来なかった母は、一緒に旅番組を見ていると「ここ行ったことある?」「ここどんな所?」「きれいな場所ね、ここ知ってる?」などとよく姉と私に聞いてきました。
父の手前、「ここに行きたい」「あれが見たい」とはあまり口には出しませんでしたが、きっと色々な場所を訪れたかったのだと思います。
そうしてこれを書きながらページをめくるごと、その場所に想いを馳せていたのだろうと思います。
そんな母の姿を想いながら、これを最後まで書き終え母を芭蕉が詠んだ旅先に連れて行ってあげようと思い立ち、残りの須賀川から大垣までを私が引き継ぐことにしました。
ただ、そうは言っても道のりは長く果てしなく、パソコンや力要らずで書けるゲルインクに慣れてしまった私には、鉛筆で文字を書くのも一苦労です。
本当は芭蕉の世界観やその景色を思い描き楽しみながら母のように書ければいいのですが、まだまだ心の修業が足らないようです。
誰かの想いを引き受けるのは簡単なことではありませんが、理解しようと努力して同じようにやってみながら少しずつでもその想いに近づけたらと思います。
実際書き始めてみて感じるのは、大切なのは「想い」に寄り添うことではないかということ。
この寄り添う気持ちをどこかへ置き忘れてしまわないようにしていきたいです。
ミッションパート
佐藤真樹